ゲノムとは

ゲノムとは

私たちヒトの体は、成人の場合で約37.2兆個という数多くの細胞から構成されています。
細胞の形も様々で神経細胞や血液細胞、皮膚細胞などといった姿形に変えて細胞がヒトを形成しています。
これらの細胞ひとつひとつの中にはゲノムと呼ばれる全遺伝情報が収納されています。
ヒトの細胞の数と、細胞の内部にゲノムが存在する様子を示すイラスト

全遺伝情報とはヒトの外見上・内面上のすべての個性を形成する元となる情報のことで、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基の並び順で決められています。そしてこのA・T・G・Cは様々な順番で約30億個並んでおり、この約30億個分すべての塩基の配列が全遺伝情報となって、これがゲノムと呼ばれています。
30億の塩基が並んでいる様子を示すイラスト

このゲノムの内容は基本的にはすべての細胞で同じであり、従って、成人の場合においては約37.2兆個の細胞のひとつひとつに約30億個分の塩基配列からなるゲノムが体中に存在していますので、数字で表現できない位のボリュームになります。

現在ではゲノム(約30億個のA・T・G・Cの並び順)の一部と、身長や体型、顔立ちなどの外見的な個性や、体質や性格、考え方などの内面的な個性、あるいは病気のなりやすさといった様々なヒトの個性との関係性について研究が進められています。

ゲノムの類似性

約30億個の塩基配列からなるゲノムですが、生物間においてほとんどのゲノム(塩基配列)が共通しています。

例えば、ヒトと一番近いゲノムを持っている生物として挙げられるのがチンパンジーです。

ゲノムを解明していくとチンパンジーがヒトの祖先だったということが分かるのですが、ヒトとチンパンジーの見分けがつかない方は恐らくいないでしょう。
それだけ姿形の違うヒトとチンパンジーですが、ゲノムを比較してみるとなんと98.77%ものゲノムが一致していることが分かりました。

また、ヒト同士のゲノムの違いは更に少なく、ヒトとヒトの間では99.9%ものゲノムが一致します。

つまり、世界各国に存在する様々なヒトの外見上・内面上の個性を決めているのはたった0.1%のゲノムであるということ、またヒトの特殊性・チンパンジーの特殊性を決めているのはたった1.13%のゲノムであるということが言えるわけです。

0.1%とパーセンテージで見ると少ないように感じるヒトの間のゲノムの違いも、相違する塩基配列の数で見れば30億×0.1%=約300万もの数の塩基配列となり、この300万もの塩基配列の違いが様々なヒトの個性を生み出すひとつの要因となっています。

ゲノムが与えるヒトの個性への影響

ここで、ヒトはゲノムを元にして形作られたものであるから、すべてのヒトのカラダやココロの個性は100%ゲノムだけを要因として形成されるのかという疑問が出てきます。

この解釈については負の歴史があり、かつてゲノムが100%ヒトのカラダやココロを形成しているとして差別的な解釈を行い、劣ったゲノムを持つと定義づけられた人種が無意味に虐げられてきました。
ナチスドイツが行ったユダヤ人の大量虐殺の発端に上記の解釈が存在していて、この解釈を優生学といい、遺伝学を説明するにあたって切っても切れない関係にあります。

遺伝とはで簡単に説明させていただきましたが、現在においては、ヒトのカラダやココロの個性は生まれ持ったゲノムというベースに環境要因が混じり合ってはじめて形成されるものであり、優生学は非常に偏った誤った解釈であることが科学的に解明されていますので、我々は二度と同じ過ちを繰り返してはなりません。

他方で、ゲノムがベースとなってヒトが形成されているという原理上、ゲノムの存在すべてを否定して、ヒトのカラダやココロの個性が100%環境要因で出来あがっていると解釈するのもまた偏った考えであり、逆の意味での優生学に繋がりかねません。

そこで、ゲノムと環境要因が与える個性への影響を客観的かつ統計的に評価するため、双生児法と呼ばれる計測法が用いられています。
双生児法を簡単に説明すると、ふたごのゲノム上の特殊性を利用した遺伝要因・環境要因の両要因がヒトの個性に与える影響の計測法のことです。

双生児は大きく一卵性双生児と二卵性双生児に分けることができます。
詳細のメカニズムは染色体とはにて説明させていただきますが、遺伝の原理上一卵性双生児の間では親から継承する遺伝情報が100%一致(つまり、一卵性双生児は全く同じゲノムを持つ)し、二卵性双生児の間では親から継承する遺伝情報が50%一致いたしますので、一卵性双生児と二卵性双生児のカラダやココロの個性を調査することで、その個性が遺伝要因によるものか、あるいは環境要因によるものか、それぞれの影響度を検証することができるわけです。
一卵性双生児が生まれるメカニズムを示すイラスト
二卵性双生児が生まれるメカニズムを示すイラスト

テレビなどでよく見る、一見すると区別がつかないほど互いによく似ているふたごが一卵性双生児であり、二卵性双生児の場合は兄弟姉妹と同程度似通った部分が見受けられる位です。
一卵性双生児については、外見はもちろんのことながら言動や嗜好などについてもよく似通っている方が多く、このことからヒトのカラダやココロを形成するにあたってゲノムが大きな影響力を持っているということは簡単に想像できます。
一方で、一卵性双生児の親や仲の良い友人は、一卵性双生児を区別することができるということも事実であることから、ゲノムが100%同じであったとしても、ヒト個人が受けた環境要因の影響によってヒトのカラダやココロに多少なりとも違いが出てくることもまた事実だと断定できるでしょう。

⑴双生児法によるゲノムの影響の解析方法

上述したとおり、同一のゲノムを持つ一卵性双生児は外見・言動・嗜好等といった個性が非常に似通っているという傾向にあります。
反面で、一卵性双生児は母親の子宮の中からはじまって、生まれて成長していく過程についても互いに同じ環境で育てられていることから、一卵性双生児の外見・言動・嗜好が似通っている要因が遺伝によるものなのか、または環境によるものなのかを分離して評価することができません。
つまり、一卵性双生児の類似性だけを見て、ゲノムが同じだから似通っていると判断するのは非常に非科学的なことなのです。

他方で、前述したとおり二卵性双生児においては親から継承する遺伝情報が50%一致しており、また一卵性双生児のケースと同様に、ほとんどの二卵性双生児が母親の子宮の中からはじまって、生まれて成長していく過程についても同じ環境で育てられていることから、一卵性双生児の類似性と二卵性双生児の類似性の差を数多く比較研究していくことで、ゲノムがヒトの個性に与える影響を統計的に数値化して評価することができるわけです。

具体的には数多くの一卵性双生児・二卵性双生児の個性の似通っている度合いを《相関係数(r)》という係数を用いて評価します。この相関係数(r)は1なら完全に一致、0なら完全に不一致となり、類似する程度が大きければ1に近く、程度が小さければ0に近くなっていきます。

⑵双生児法によるゲノムの影響の解析例

一卵性双生児1564組、二卵性双生児1617組を対象とした出生時点の体重の類似性を調査した結果、相関係数(r)が一卵性双生児で0.71、二卵性双生児で0.66となりました。
一卵性双生児と二卵性双生児の間の相関係数(r)の差が遺伝要因のバロメーターとして評価できるわけですが、出生時点の体重においては、この差が0.05とわずかであり、また一卵性双生児・二卵性双生児ともに相関係数(r)が高い水準であることから、出生時点の体重については遺伝要因による影響は低く、母親の子宮内部における環境要因による影響が高いと評価できます。

この結果の受け取り方として注意いただきたいのが、遺伝要因・環境要因のどちらかを否定しているわけではなく、遺伝要因も環境要因も存在するが、遺伝要因よりも環境要因による影響が大きいと評価している点です。

一方で、上記の解析対象となった両双生児のうち、一卵性双生児472組と二卵性双生児177組が中高生に成長した時点での体重の類似性を調査した結果、相関係数(r)が一卵性双生児で0.90に増加、二卵性双生児で0.56に減少しました。
遺伝要因のバロメーターとなる一卵性双生児と二卵性双生児の相関係数(r)の差が0.34に増大していますので、出生時点から中高生に至るまでの間に遺伝要因による影響が増大したと評価できます。

⑶双生児に与える共有環境と非共有環境の影響

なお、一卵性双生児においてゲノムが同一で、一緒の環境で育てられているにもかかわらず相関係数(r)が1にならない理由としては、一卵性双生児が育つ環境が同一ではないことが挙げられます。

同じ屋根の下で起こる出来事についても、一方は右側から、他方は左側からそれぞれ見ていますので、一卵性双生児二人を全く同一の環境で育てることは不可能です。また、幼稚園や保育園に通うようになると、それぞれの一卵性双生児を取り囲む周りのヒトからの影響なども受けることでしょう。
そうした数多くの違いが積み重ねが、親や仲の良い友達であれば分かる一卵性双生児の間の違いを生み出すのです。

この双生児間における異なる環境を非共有環境、双生児間で全く同一の環境を共有環境とそれぞれ区別して呼びます。

非共有環境要因は簡単に数値化することが可能で、例えば上述した中高生時点での一卵性双生児の相関係数(r)は0.90ですので、0.10が非環境要因による影響と評価できます。

⑷ゲノム・共有環境・非共有環境それぞれの影響

上述した双生児法に基づく様々なヒトの個性について相関係数(r)を集計し研究した結果に基づき、エリック・タークハイマーが以下の《行動遺伝学の三原則》を提唱しています。
⑴遺伝の影響はあらゆる側面に見られる
⑵共有環境の影響はまったくないか、あっても相対的に小さい場合が多い
⑶非共有環境の影響が大きい

《行動遺伝学の三原則》によれば、やはりゲノムの影響はヒトのあらゆる個性に関係していて、さらに非共有環境が混ざりあうことでヒトの個性が決定されていると考えることができます。

また前述のとおり、そもそも同じ屋根の下で育っても同一の環境になるケースがほとんど存在しないため、共有環境の影響がほとんどないということも納得のいく結論と言えるでしょう。

細胞分裂とゲノム

私たちヒトの体は、生まれた時は3キログラム程度であった体が大人になるにつれて大きく成長していきます。

一方で成人と幼児の細胞を比較したところ、ひとつひとつの細胞の大きさに違いはありません。

つまり、成人と幼児で体の大きさが違うのは細胞の大きさが違うからではなく、細胞の数が違うのです。

元々ヒトの生命は卵子と精子が結びついた受精卵という1つの細胞からはじまり、細胞分裂を繰り返すことで少しづつ大きく成長していきます。(成人男性の場合、約37.2兆個もの細胞が存在するということは前述のとおりです。)

この細胞分裂は成人した後もとどまることなく続けられており、1秒で数百万個もの細胞が生み出されているとも言われています。この細胞分裂は一般に新陳代謝とも呼ばれるもので、新たな細胞が生み出された分死んでいく細胞が存在します。たとえば皮膚細胞の死がいは垢となって体外に落ちていきます。
この細胞分裂の時にゲノムも同じように分裂するわけですが、上述したとおりヒトの細胞ひとつひとつには同じゲノムが収納されていますので、分裂といってもゲノムが2分の1になるわけではなく、コピーされて2倍の量になったゲノムが分裂後の各細胞に分配されます。
上記の細胞分裂に伴うゲノムの分裂時に現れるのが染色体です。

>>染色体とは

 

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