遺伝とは

遺伝は遺伝継承と多様性の組み合わせ

日本人の多くの方は遺伝と聞くと《継承》という捉え方をする傾向にあります。
日本人は昔から親子の関係について『血が繋がっている』という表現をしていたり、あるいは会社の役員や従業員が退任・退職しても変わらない会社の独自の価値観などについて『企業DNA』といった表現をされることを鑑みても、日本人が遺伝の解釈について《継承》という意味合いに傾倒して理解しがちであるということがお分かりいただけるかと思います。

上記の理解は完全な誤りであって、遺伝という現象は不変的なモノが伝達されていくといったように簡単に説明できるものではありません。

科学的に遺伝の仕組みを研究していくと、遺伝という現象は上記の《継承》の要素に加え、ヒトそれぞれが持つ《多様性》が混じり合って起こっていることが解明されています。さらに、この《多様性》にはヒトが生まれながらに持っている先天的な《多様性》と、周囲の環境要因による後天的な《多様性》が存在いたします。

まずは遺伝によってヒトが決定されていると捉えるのはやめ、遺伝というベースの上に《多様性》が加わって、はじめてヒトの外見上・内面上の個性が決定されていると理解するようにしましょう。

《多様性》が生まれる仕組みについては染色体とはにて説明いたしますが、まずは遺伝による《継承》の基本的な原理から説明していきます。

メンデルの遺伝法則

古くは紀元前からヒポクラテスやアリストテレスらの功績によって、遺伝に対する思想は存在していました。

この遺伝に対する考え方を学術的なものに昇華させたのがグレゴール・ヨハン・メンデルが行ったエンドウマメを用いた交配実験による遺伝法則《メンデルの法則》の発見です。

メンデルがこの法則を発表した1865年当時は大きく取り上げられることはありませんでしたが、メンデルの死後、1900年に3人の遺伝学者によって再発見されたことによって高く評価されることとなり、現在の遺伝学の礎となりました。

《メンデルの法則》は大きく以下の3つの法則から構成されております。

⑴優性の遺伝法則

豆の色が緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメを交配させると、子の代ではすべて緑色の豆が生まれます。
緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメを交配させると、子の代では緑色のエンドウマメだけが生まれる様子を示したイラスト
続いて、上記の子の代のエンドウマメ同士を交配させると孫の代の一部で黄色の豆を持ったエンドウマメが生まれます。
緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメから生まれた子の代のエンドウマメ同士を交配させると、孫の代では緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメが混在して生まれる様子を示したイラスト
上記の交配結果から、緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメの子の代では、黄色の豆を作る元となる遺伝情報が消えてしまったわけではなく、緑色の豆を作る元となる遺伝情報に負けてしまい表に出てこれてないという現象が発生していることが証明されました。

このように、豆の色が緑色・黄色と2つの性質をもたらす遺伝情報が存在するのにも関わらず、一方の性質だけが表れる現象を《優性の法則》と呼びます。そして、例示したケースにおいてはエンドウマメの豆の色を緑色にする遺伝情報が優性、黄色にする遺伝情報が劣性となります。

なお、ヒトの遺伝の一部においても《優性の法則》が現れる遺伝情報がありますが、優性が優れた性質で、劣性が劣った性質と勘違いしないようにご注意ください。
あくまでも優性は表に現れる性質、劣性は表に現れない性質という区分でしかありません。

優性(dominant)は顕性、劣性(recessive)は潜性という言葉で表した方が、日本語の表現としては正しいものかもしれませんが、優性・劣性という言葉は学術用語として確立されているものですのでご容赦ください。

⑵分離の遺伝法則

優性の法則で説明したとおり、豆の色が緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメを交配させると子の代ではすべての豆が緑色、孫の代では一部で黄色の豆を持つエンドウマメが生まれます。

ここで豆を緑色にする遺伝情報をA、豆を黄色にする遺伝情報をaに置き換えて考えてみると、子の代では優性の法則によりAの遺伝情報が表に現れますが、孫の代でaの遺伝情報が現れるということは、この代でaの遺伝情報が消えてしまったわけではないということが説明できます。

つまり、親の代においてはAとaの遺伝情報がそれぞれ単独で存在していたのに対して、子の代においてはAとaの2つの遺伝情報が分離した状態で混在していて、このうち表に現れる遺伝情報がAだということです。
親の代から子の代にかけて2つの遺伝情報が分離した状態で遺伝することを示したイラスト

上記の図のとおり、豆を緑色にする遺伝情報を持ったエンドウマメの親をA、豆を黄色にする遺伝情報を持ったエンドウマメの親をaとするならば、この親を交配させることにより生まれた豆が緑色のエンドウマメはAaという遺伝情報を持っていると表現できます。

そして、孫の代において一部で豆が黄色のエンドウマメが現れるわけですが、豆が黄色のエンドウマメはランダムに出現するわけではなく、孫の代における緑色のエンドウマメと黄色のエンドウマメの比率はほぼ3対1であることが分かりました。
孫の代のエンドウマメで、緑色と黄色のエンドウマメが3:1の割合で生まれてくる状態を示したイラスト

この現象はAaの遺伝情報を持つ子の代の豆同士で交配をさせたとき、Aという遺伝情報とaという遺伝情報がそれぞれ別個に孫の代に継承されると仮定すれば説明できます。

すなわち、AaとAaのエンドウマメを交配させると、AAの遺伝情報を持つ緑色のエンドウマメが1、Aaの遺伝情報を持つ緑色のエンドウマメが2、aaの遺伝情報を持つ黄色のエンドウマメが1現れるということです。従って、優性のAという遺伝情報を持つエンドウマメの色は緑色に、劣性のaという遺伝情報のみを持つエンドウマメの色は黄色になり、その比率はちょうど3対1となります。

下記の図で見ていただくと分かり易いかと思います。
Aとaという2つの遺伝情報が分離して次の代に伝わる様子を示したイラスト

遺伝情報とは液体ではなく粒子のようなものであり、その粒子状の遺伝情報が混ざり合うのではなく分離した状態で次の世代に継承される現象を《分離の法則》と呼びます。

⑶独立の遺伝法則

メンデルが豆の色以外に着目した遺伝情報として豆の形があります。

具体的には豆が丸いエンドウマメと、豆にシワがあるエンドウマメを交配させると子の代では豆が丸いエンドウマメのみが現れ、豆の色を決定する遺伝情報と同様に孫の代において3対1の割合で豆にシワがあるエンドウマメが現れました。

従って、豆を丸くする遺伝情報が優性で、豆にシワをつける遺伝情報が劣性と評価できますので、豆を丸くする遺伝情報をB、豆にシワをつける遺伝情報をbと表現します。

続いてメンデルは豆の色・形という異なる2つの性質がどのように遺伝するか検証しました。

具体的には、緑色で丸いエンドウマメ(遺伝情報ではAB)と、黄色でシワがあるエンドウマメ(遺伝情報ではab)を親の代として交配させたのです。

豆を緑色にする遺伝情報Aと豆の形を丸くする遺伝情報Bが優性の遺伝情報ですので、子の代の遺伝情報はAaBbとなり、緑色で丸い形質のエンドウマメしか現れません。
緑色でシワのないエンドウマメと黄色でシワのあるエンドウマメを交配させると、子の代では緑色でシワのないエンドウマメだけが生まれる様子を示したイラスト

上記の子の代同士を交配させたところ、孫の代では緑色で丸いエンドウマメ、黄色でシワがあるエンドウマメの他、緑色でシワがあるエンドウマメ、黄色で丸いエンドウマメが生まれました。

そして、この時の比率が緑色で丸いエンドウマメが9、緑色でシワがあるエンドウマメが3、黄色で丸いエンドウマメが3、黄色でシワがあるエンドウマメが1の、9対3対3対1の比率となりました。
このことから、AB・abという親の代のエンドウマメの異なる2つの形質を現す遺伝情報は、子の代から孫の代にかけて以下のように継承されていったと評価できます。
緑色でシワのないエンドウマメと黄色でシワがあるエンドウマメから生まれた子の代のエンドウマメ同士を交配させると、孫の代では緑色でシワのないエンドウマメ、緑色でシワがあるエンドウマメ、黄色でシワのないエンドウマメ、黄色でシワがあるエンドウマメが9:3:3:1の割合で混在して生まれる様子を示したイラスト
Aとa、Bとbという4つの遺伝情報が分離して次の代に伝わる様子を示したイラスト
このように、種類が異なる2つ性質を表す遺伝情報(上記の例では豆の色と形)がそれぞれ別々に継承されていくことを《独立の法則》と呼びます。

メンデルの法則で説明できるヒトの遺伝現象

ヒトの遺伝はメンデルの法則だけで説明できるような簡単ではないものがほとんどですが、ヒトの遺伝情報の一部についてはメンデルの法則で説明可能なものも存在します。

2種類の遺伝情報を元に、メンデルの法則によるヒトにおける遺伝情報の継承の解説をいたします。

⑴ヒトにおける血液型の遺伝

メンデルの法則で説明可能なシンプルなヒトの遺伝継承として、まずは血液型が挙げられるでしょう。

ヒトの血液型にはA型、B型、AB型、O型が存在いたしますが、これらの血液型によってヒトの形質の何が異なっているかご存知でしょうか?

実は、血液の主成分である赤血球の構造が違っているのです。具体的には血液型によって赤血球の表面状の糖鎖と呼ばれる構造に違いがあります。

すべての血液型に共通している糖鎖が赤血球の表面にガラクトース・フコースという順番に結びついている形状です。この糖鎖を基本として、A型のヒトはガラクトースにNアセチルガラクトサミンとフコースが結びついていて、B型のヒトはガラクトースにガラクトースとフコースが結びついています。AB型のヒトはA型B型両方の形式の糖鎖を持っており、O型のヒトはガラクトースにフコースだけが結びついています。
血液型による糖鎖の構造の違いを示したイラスト

これらの糖鎖は酵素の働きによるものと解明されており、A型のヒトはガラクトースにNアセチルガラクトサミンを結びつける酵素を、B型のヒトはガラクトースにガラクトースを結びつける酵素を、AB型のヒトはA型B型両方の形式の酵素を持っています。これに対しO型のヒトはガラクトースにフコース以外を結びつける酵素を持っていません。

メンデルの法則の章で説明したようにヒトの血液型を遺伝情報で例えるならば、AA型・AO型・BB型・BO型・AB型・OO型の6つのパターンに分かれ、上述のとおりOの遺伝情報はガラクトースにフコース以外を結びつける酵素を持っていませんので、AA型とAO型がA型、BB型とBO型がB型、AB型がそのままAB型に、OO型となってはじめてO型になります。

従って、メンデルの《優性の法則》で説明するところのA型とB型が優性の遺伝情報、O型が劣性の遺伝情報となります。

続いて、AO型の男性とBO型の女性との間で生まれる子の血液型の遺伝パターンを見ていきましょう。
AとO、BとOという4つの血液型に関する遺伝情報が分離して子の代に伝わる様子を示したイラスト

上記の図のとおり、AB型・A型(AO型)・B型(BO型)・O型(OO型)がそれぞれ4分の1の確率で生まれます。

A型(AO型)とB型(BO型)のヒトからO型(OO型)の子が生まれますので、ヒトの血液型においてもメンデルの《分離の法則》が当てはまることが説明できます。

⑵ヒトにおける耳垢のタイプの遺伝

ヒトの耳垢のタイプについては、血液型より更に簡単にメンデルの法則により説明できます。

耳垢については、湿性と乾性の2つのパターンの方がいらっしゃいますが、湿性の遺伝情報と乾性の遺伝情報をそれぞれ引き継いだ方の耳垢は湿性となります。

すなわち耳垢を湿性にする遺伝情報が優性、耳垢を乾性にする遺伝情報が劣性となり、メンデルの《優性の法則》が適用されます。

日本においては耳垢が乾性のタイプのヒトが多数派で、耳垢が湿性のタイプのヒトは少数派ですので、耳垢を湿性にする遺伝子が優性だというのは少々意外ですが、アメリカやアフリカにおいては耳垢が湿性のヒトが多数派になります。

耳垢を湿性にする遺伝情報をE、耳垢を乾性にする遺伝情報をeとした場合に、Eeの遺伝情報を持つ両親の子は、EEの遺伝情報が1、Eeの遺伝情報が2、eeの遺伝情報が1の割合で生まれてきます。
湿性と乾性という2つの耳垢の性質に関する遺伝情報が分離して子の代に伝わる様子を示したイラスト
すなわち耳垢が湿性のタイプの両親から耳垢が乾性のタイプの子が生まれることになりますので、メンデルの《分離の法則》を説明することができます。

⑶ヒトにおける血液型と耳垢のタイプの遺伝

上述したヒトの血液型と耳垢のタイプは異なる性質の遺伝情報です。

これらの異なる2つの遺伝情報が子の代にどのように継承されるのでしょうか。

AOEe(A型で耳垢のタイプが湿性)の男性と、BOEe(B型で耳垢のタイプが湿性)の女性との間で生まれる子が継承する遺伝情報のパターンを確認すると少々複雑にはなりますが以下のようになります。
AとO、BとOという4つの血液型に関する遺伝情報と、湿性と乾性という2つの耳垢の性質に関する遺伝情報がそれぞれ分離して子の代に伝わる様子を示したイラスト

上記の図をご覧いただければ分かるとおり、比率の違いはあれど、A型で耳垢が湿性のヒトもいれば、A型で耳垢が乾性のヒトもいらっしゃり、B型・AB型・O型も然りです。

このことから、ヒトにおける血液型と耳垢のタイプという2つの異なる性質の遺伝情報の継承において、メンデルの《独立の法則》のメカニズムが説明できます。

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